<私の修復理念>

修復といっても、多くの方は、その実情をご存じないでしょう。言いかえれば、近年までは特殊で閉鎖的な業界であったように思います。
最近は報道番組などで、資料館収蔵の絵画や、文化財指定された建造物など、いろいろな修復現場が取り上げられていますが、これはほんの一例であって、現状は多岐多様にわたります。対象物も様々で、日本画・洋画・立体造形・発掘品・書物・古文書などなど数えきれません。その知識や技術もまだまだ未完成な部分が多く、日々研究と改良の繰り返しです。
 
私は、書物のコレクターとして自作の保存用ケースを制作したり、傷ついた古書籍を修理しているうちに、プロの修復師として書物をはじめ様々なジャンルを対象に扱うようになります。また付帯業務として、修復依頼書籍のレプリカ作成や、帙などの外装制作、更には装丁製本へとつながって行きます。
 
バブル期の修復対象は行政機関・博物館・美術館・図書館の収蔵品、公共施設が中心で、新たな施設のオープン準備や、貴重コレクションの継続的作業など、まとまった仕事が多く、故に実作業以外の営業・調査・資料作成など記録や手続きなどの業務にも多くの時間を割かれました。
その結果、対象となるものは一部の研究者が特別に扱える収蔵品や、数十年に一度公開されるような、古刹の寺宝よりもご大層な扱いを受けている物に偏っていたことも否めません。
 
凡そ10年ほど前、保存・修復とは別に営んでいた、書籍・美術工芸関連の事業に想定外の問題が生じ、当時扱っていた業務の全てを同業者に委ねました。不安定な環境下では、責任ある修復作業はできません。
今、落ち着いた暮らしを取り戻し、長年培ってまいりました知識と技術で、新たな保存修復工房を立ち上げた次第です。
 
しかし以前のように特別な品、御高い物ではなく、まだまだ市井に眠る品々。個人が大切にされている書籍や絵画ほか、100年 1000年かけても終わることない作業。場合によっては廃棄されかねない品々に新たな命を吹き込む作業を軸に、取り組んで行きたいと考えています。
過去に、国宝や文化財指定される前に修復して欲しいという依頼も、多くありました。つまり一つの品が、なんでもない状況であれば無理なく扱えるが、いちど指定を受けてしまうと、膨大な時間と費用が必要になるということです。
 
ですが世の中には、普通の暮らしの片隅に眠っている、磨けば光る素晴らしい品、資産的価値はなくとも個人にとってはかけがえのない品が、数え切れぬほどあるでしょう。そのような品々を扱う錬金術師になれればと願います。長屋の職人に。
 
どんな物でも、どうぞお気軽にご相談をください。
令和2年1月        
生田敦夫 記す

<館主 装丁製本・保存修復師経歴>

昭和62年4月
日本画家・藤森茂夫(高岡大仏地獄絵図作者)に師事(28歳)
平成元年2月
独学で修復・装丁製本を始める
平成5年10月
経師 大入に師事
平成9年4月
経師 大入 工芸課長
平成12年6月
京都保存修復研究所 設立
平成17年~18年
ウィットマン大学美術科(米国ワシントン州)客員教授
平成22年12月
京都保存修復研究所 休業
平成25年~30年
京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)
 日本画(和紙孔版画・絵本、キャリア)コース 講師
令和2年7月
京都保存修復研究所 業務再開
   現在に至る

<納品済取引先>

・高野山金剛峰寺ほか全国社寺

・金沢市立泉鏡花記念館

・室生犀星記念館ほか全国文学館

・京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)図書館ほか全国図書館・美術館・博物館

・吉田生物研究所ほか全国研究機関

・(有) 浪速書林ほか全国古書籍商

ほか多数

<研究論文>

・「合成樹脂の利用による劣化した近代洋紙資料の保存修復の試み」(日本保存修復学会・奈良大学)

<講演等>

・「陰影礼賛 日本の明かりについて」(京都文芸復興倶楽部・京都芸術大学)

・「書籍保存における修復を考える」(奈良県立図書情報館)

ほか多数