「忘れられた名作」選集

齢60も近づき、しみじみと時が過ぎゆく儚さを思うこの頃。
無作為にため置いたものを、整理、処分、保留と、俗に言う<終活>とやらに、無意識に没頭している毎日。

その中から、懐かしい品を紹介したい。
私が30代前半に、作成された資料。
はや四半世紀を過ぎている。
「忘れられた名作(選集)」と記されたメモ用紙(B5)数点である。

私は、過去にも度々公言してきたが、小学生のころから長年、父・生田耕作とは犬猿の仲だった。
その私が28歳から2年間、富山県高岡市にアトリエを構える老絵師のもとに寄宿、30歳になって京都へ戻るのだが、それが契機となり父と和解する。
以後、お互いが空白の十数年間を取り戻すように、三日と開けず知識と情報のやり取りを続けた。

そんなある日、当時洛北にあった古書店で、偶然手にとった明治期の小説がある。
当時ほとんど無名の作家だった、江見水蔭 作『鏡と剣』。
のちにこの作品との出会いが切掛けで、父と私の忘れられた名作探しがはじまった。

古書目録で文芸書を買い漁り、共に古書店を巡り、古書市を訪ねる、懐かしく楽しい日々だった。
そして、サバト館からの出版を企てはじめたのが、『忘れられた名作』選集である。
あれこれ話しを重ね、父が私に「これで決めよう」と、手渡してくれたのが写真のメモである。B5サイズの用紙に、ペン書きと鉛筆書きで走り書きされたものだ。

ところが、父が病魔に蝕まれ、紙媒体書籍の衰退も重なり、いまでは幻の作品集となってしまった。
しかし昨今の電子媒体の広がりを眺め、このところムズムズし始めている。

選集に加えたかった名作は多いが、その中に少し異端の作品がある。
里見弴が、母親の里である九州の山村に、徳川時代に伝わっていた奇習慣を題材とした短編小説「ひえもんとり」。

ぜひ、ご一読あれ。

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