「常照寺の東屋」(吉野大夫の墓)

野暮用で出かけたついでに、父・生田耕作の墓所、常照寺へフラっと立ち寄ってみた。初夏の日差しにも誘われて。

常照寺は洛北鷹峯にあり、江戸の名妓・吉野大夫の墓所として知られており、
亡くなった太夫を生涯慕った、灰屋紹益と吉野大夫の慰霊塔が境内にしっとりとした趣を漂わせている。

私の実家(故あって今は無い)から徒歩5分ほどの近所で、すこし離れて光悦寺もある、風光明媚な一帯。
その常照寺の境内に、東屋(聚楽亭)がある。

実家とは別に、晩年の父がサバト館として使っていた建物が、この常照寺から光悦寺を超えて少し歩んだあたりに残っている。
今では草が生い茂り、光陰の儚さを禁じえない。

さて、常照寺の東屋。
晩年の父と、大切な話をする際に、お世話になった懐かしい場所である。
父の最晩年、
「敦夫、ちょっと散歩に行かへんか。」
雨上がりの、やや冷んやりとした午後。
二人でぶらっとこの聚楽亭へ向かい、静かなひと時を過ごした。
「敦夫には、長年苦労をかけたなあ・・」
「いや、別に。」
「相談があるんや。」
「何?」
「お母さんと離婚して、広政を僕の籍に入れてやったらアカンか? お母さんには敦夫も文夫もいるし・・ 広政には何も残してやれへんのでなあ。敦夫が駄目やと言えばやめておく。」
「別にかまへんよ。僕も30を過ぎて、それなりに理解しているつもりやし。」
「そうか、ありがとう。」
その翌年、父は亡くなった。

父の墓を詣でて寺の門を出ようとすると、住職の奥方に呼び止められた。中庭を望み抹茶と茶菓子を頂戴。しばらくすると住職もお帰りになられ、楽しいお話を。好いひと時である。

寺を出て、父と時々世話になったフランス料理店・ボルドー(光悦自動車教習所向かい)へ行ってみた。コロナの影響だろう、残念ながら閉店中。

またいずれ、ゆっくりと訪ねてみよう。

 

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